テレビで大人気のお笑いコンビ・EXIT。そのボケ担当・兼近大樹さんが書いた小説『むき出し』は、主人公・石山大樹(いしやま だいき)の人生をとおして、「生きづらさ」と「希望」が描かれた物語です。
勉強もできず、まわりの大人にも理解されず、貧しい家庭で育った少年が、失敗や罪をくり返しながらも、少しずつ前に進んでいきます。まわりの人との出会い、本との出会いが、石山の心を変えていく大きなきっかけになりました。
この小説には、作者である兼近さんの実体験が色濃く感じられます。
「人は変われる」「どんな場所にいても、希望を見つけていい」そんなメッセージが、読む人の心にまっすぐ届く一冊です。
『むき出し』はどんな作品?
兼近大樹さんの小説『むき出し』は、ひとりの少年が、つらい過去を抱えながらも未来を切り開いていく物語。
芸人として知られる作者ですが、この作品では「自分の生き方そのもの」をテーマにしています。
テレビでは明るく前向きなイメージの兼近さん。しかし、その裏には、誰にも言えない苦しさや、どうしようもない現実と戦ってきた歴史がありました。
読んだ人の多くが「こんな人生だったなんて知らなかった」「今の姿がある理由がわかった」と言います。
芸能人が書いた小説として注目されたことはもちろんですが、それ以上に物語として心に響く力を持っています。
どんな家庭に生まれるかは自分では選べません。学校でうまくいかないこともあります。人間関係がつらい時もあります。
「むき出し」は、そうした生きづらさを抱えた人が読めば、自分のことを少し好きになれる。そんな優しさと、少しの苦味を含んだ作品です。
「読みやすい」「共感できる」「勇気をもらえた」という声がたくさんあり、普段は本を読まない人も手に取りやすい内容。
EXITファンだけでなく、将来に迷っている学生さん、今の自分に自信を持てない大人の方にもおすすめできます。
ここからは、この作品の基本情報と、読みやすさ・文体の魅力について、より詳しく紹介していきます。
基本情報(著者・出版日・ジャンルなど)
『むき出し』は、2021年10月27日に文藝春秋から発売された小説。著者は、お笑いコンビ・EXITの兼近大樹さん。
デビュー作ですが、発売直後から大きな反響を呼び、ランキング上位に入ったことで話題となりました。
ページ数は読みやすいボリュームで、中学生でも十分に読み進めることができます。ジャンルはフィクション小説ですが、作者自身の実体験が強く感じられるため「自伝的小説」として読む人も多いです。
登場人物の名前は変わっていますが、背景にある出来事や感情は、現実と深く重なっていると語られています。
そのため、テレビで見ている兼近さんとは違う「ひとりの人間」としての姿を知ることができます。

彼がどう成長し、なぜ芸人になったのかを知りたい人にとっては、とても貴重な作品です。
作品の魅力(文体・視点・読みやすさ)
『むき出し』の魅力は、なんといっても「読みやすく、心に届く文章」。難しい言葉が少なく、まっすぐな表現が多いため、小説を読み慣れていない人でも無理なく読み進められます。
特徴的なのは、主人公の成長につれて文章の視点が変化すること。
・幼いころのシーン → 子どもの感じたままに
・思春期 → 怒りや反発が言葉に出る
・大人になっていく → 俯瞰して物事をとらえる
視点の変化によって、主人公の心の動きがよりリアルに伝わってきます。
また、作中には「空」や「太陽」が繰り返し登場。どんな時でも空と太陽はそこにあり、自分を見ているような感覚。
希望でもあり、残酷でもある“絶対的な存在”として描かれており、物語の象徴になっています。
そして、主人公は何度も失敗します。人に迷惑をかけたり、取り返しのつかない罪を犯してしまったり。
それでも「自分を変えたい」と願い、新しい一歩を踏み出していく。その姿は、読む人に大きな力を与えてくれます。
作者自身が「この小説を書きながら自分も成長した」と語るほど、真剣に向き合って書かれた作品です。
だからこそ、言葉の一つ一つが生きていて、読む側の心にもまっすぐ刺さるのだと思います。
『むき出し』のあらすじ(ネタバレあり)
この物語は、主人公・石山大樹(いしやま だいき)の視点を通して進みます。
幼いころは感じたままに、思春期になると反抗的に、大人になると俯瞰して考えるように——文章の“見え方”が変化することで、読者も一緒に成長を味わえる構成。
ここでは、石山がどんな人生を歩んできたのか、4つの時期に分けて紹介します。
幼少期〜中学時代|居場所を失った少年の日々
石山は北海道の貧しい家庭に生まれました。
家では暴力が当たり前。学校でも落ち着いて座っていることができず、先生や親が言う「普通」が理解できません。勉強も苦手で、同級生からも浮いた存在でした。
小学生の頃、友達とやった悪ふざけで問題を起こしてしまいます。自分は一緒に楽しんだと思っていたのに、友達は「石山にやらされた」と言う。信じられる仲間もなく、石山は次第に荒れていきます。
中学に入ると、同じく生きづらさを抱える仲間たちとつるむようになります。しかし、強がって喧嘩を繰り返す日々は、石山をさらに孤独に追いつめていきました。
ある時、女性教師に注意されたことに逆上して「殺すぞ」と言ってしまいます。それが原因で嘘の疑いをかけられ、悔しさに涙をこぼします。
「自分は悪くないはずなのに、なぜ責められるんだ」
石山は、この世界に自分の居場所がないと感じ始めます。
中卒後〜20歳|夜の街、罪、そして破滅の予感
中学卒業後、石山は進学せず働きますが、どれも続きません。やがて夜の街で働く友人に誘われ、危険な仕事へ足を踏み入れてしまいます。
・テレアポの仕事を「詐欺だ」と決めつけて辞める
・大学生との喧嘩で相手を大けがさせてしまう
・デートクラブで働き、女性を守れず苦しむ
正義感が強いのに、行動が伴わずトラブルばかり。
「自分は何をしているのか」
後悔しても、どう進めばいいのかわかりません。
そしてついに、売春防止法違反で逮捕。刑務所の狭い部屋で、石山は初めてじっくりと自分と向き合うことになります。
20歳〜芸人を志すまで|読書との出会い、そして再生
刑務所での生活中、石山は「本を読む」という新しい世界に出会います。その中には尊敬する芸人・又吉直樹さんの本もありました。
言葉は石山に問いかけます。
「本当に悪くなかったのか?」
「自分のせいじゃないと思ってきた出来事は?」
反省と自己理解が同時に進み、石山は初めて「変わりたい」と願います。
そして出所後、すべての過去を断ち切るために東京へ向かいます。
「環境も、友達も、全部捨ててやり直す」
こうして、石山の新しい人生が始まりました。
芸人としての現在|相方との出会い、テレビの世界へ
東京で石山はお笑いの学校に入ります。これまで知らなかった「普通の価値観」を、クラスメイトや客席の反応から学んでいきます。
しかし、生活は厳しく、ホームレス状態も経験。それでも、笑いの力にひかれ続けました。
「お笑いって最高じゃん。人と人をつなげられる。俺もそうなりたい。」
そんな時、同じく相方を失った芸人・中島に出会います。
「俺の最後のチャンスなんだ。スターにしてみせる。」
その言葉を信じて、2人はコンビ entrance(エントランス) を結成。
明るいキャラ、テンポの良い漫才で人気者に。週刊誌の記者が来た夜、石山は思います。
「ついに、過去が来たか。」
それでも逃げない。
隠さない。
むき出しの自分で笑いを届ける。

この物語は、ひとりの青年が、光の世界へ手を伸ばし続ける軌跡です。
作品テーマとメッセージ
『むき出し』には、ひとつの強いメッセージが流れています。それは「人は、それぞれ違う世界を生きている」ということ。
誰もが、自分の育った環境や経験をもとに考えをつくり、判断します。その違いがあるのに、私たちはすぐ「普通はこうだ」と線を引いてしまいます。
作品では、その“線引き”がどれほど残酷か、そして想像力を向けることで世界は優しくできることが描かれています。
この章では2つのテーマに分けて紹介します。
「経験が違うだけ」—偏見と分断への問いかけ
作中では、石山の行動を“悪いこと”として見る大人たちがたくさん出てきます。
しかし石山は「なぜダメなのかわからない」ことが多くありました。それは考え方が浅かったからではなく、経験が違ったから。
・暴力が身近な日常
・お金がなく進学できない
・生きるだけで精いっぱい
もし誰かがその背景を知らず、表面だけを見れば、悪い行動にしか思えません。でも「なぜそうなったのか?」を想像すると、見え方は変わります。
兼近さんはインタビューでこう語っています。
「経験が浅いんじゃなく、経験が違うんだ」
引用元:むき出し-兼近大樹
私たちはつい「間違っている」と決めつけてしまいがちです。
しかしこの作品は、相手の経験を想像する力の大切さを教えてくれます。相手の背景を知ることが、分断をなくす一歩になるのだと。
空と太陽が象徴する“絶対的存在”
物語では何度も「空」と「太陽」が描かれます。これは、石山にとっての 絶対的な存在 を表しています。
・どこにいても
・どんな状況でも
・自分がどれだけ落ちていても
空は変わらずそこにあります。しかしその存在は、ただ優しいものではありません。
「俺が消えても、空は上映され続ける」
引用元:同上
自分が苦しんでいても、世界は動き続ける。その事実は残酷です。けれど同時に、希望でもあります。
見上げればいつでも、空は広がっている。自分の世界がどんなに狭くても、外にはもっと広い世界がある。
石山はそう気づき、先へ進む力をもらうのです。
まとめ
『むき出し』は、ただ過去のつらさを暴き出す物語ではありません。主人公・石山大樹が、何度も失敗しながらも、それでも前を向こうとする「再出発の物語」です。
家庭環境や生まれ育ち、経験の違いは、誰にも選べません。
でも、どんな環境にいても人は「変わりたい」と思えるし、その気持ちを支えてくれる言葉や出会いに、いつの日か出会うことができます。
物語の中には、石山を応援してくれる人もいれば、傷つける人もいます。世界はいつも優しいとは限りません。
けれど、
・自分をおさえず生きていい
・間違いながらでも成長できる
・誰かのために動く心は消えない
そのことを、石山の人生ははっきりと教えてくれます。
そして、私たちもまた、気づかれない優しさを持ち寄れば、世界は少しずつ変わっていける。『むき出し』は、そんな希望の火を静かにともしてくれる作品です。
この作品を読めば、「今の自分でもいい」「明日を変えてみよう」
そう思える力が湧いてくるはずです。
~読書感想文・準備中~
 
  
  
  
  


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