読書感想文に選ばれることも多い名作『ごんぎつね』。
子どもの頃に一度は読んだことがある方も多いと思いますが、改めて読み返してみると、その“切なさ”や“やりきれなさ”に心を揺さぶられる作品です。
この記事では、まず物語のあらすじをやさしく紹介しながら、感想文のテーマにしやすい場面やキーワードを丁寧に解説していきます。
「どんなことを書けばいいか分からない…」という人にもヒントになるよう、シーンごとに“問い”を立てて、自分の気持ちとつなげやすくしました。
短くて奥深い物語だからこそ、自分だけの視点で読むことがきっとできます。

『ごんぎつね』を通して、自分自身の中にある“優しさ”や“すれ違い”を見つめ直してみましょう。
『ごんぎつね』ってどんな本?【簡単なあらすじ】
『ごんぎつね』は、作者・新美南吉(にいみなんきち)が18歳のときに書いた児童文学。
1932年、雑誌『赤い鳥』に初めて掲載されて以来、今でも多くの教科書や絵本に取り上げられている名作のひとつです。
新美南吉は、わずか29歳でこの世を去った作家ですが、その短い生涯の中で数々の心に残る物語を残しました。なかでも『ごんぎつね』は、彼の作品の中でも特に多くの人に愛され、語り継がれている一編です。
舞台となっているのは、作者の故郷・愛知県半田市といわれており、作品の中には昔の日本の農村での暮らしや人と自然との距離感がリアルに描かれています。
主人公は、いたずら好きな子ぎつね「ごん」。
人間の村にこっそり入り込んでは、魚を盗んだり火遊びをしたりして、村人たちを困らせていました。
ある日、ごんは村人の兵十が病気のお母さんのために捕まえたウナギを見つけ、何気ないいたずらでそれを逃がしてしまいます。
しかし数日後、ごんは兵十の母親のお葬式を目にし、「もしかしたら、あのウナギが最後の食事だったのかも…」と、深く後悔します。
そこからごんは変わり始めます。
償いのつもりで、兵十の家にこっそり鰯(いわし)を届けますが、逆に兵十は「盗んだ」と誤解されてしまう。
それでもごんはあきらめず、今度は自分で山から栗や松茸を拾って届けるようになります。
けれども兵十は、それがごんの仕業だとは気づかず、「神様の恵み」と思い込んでしまいます。
そんなある日、ごんがまた家に近づいたとき、兵十は「また悪さをしに来た」と勘違いして、ごんに向かって鉄砲を撃ってしまいます。
倒れたごんのそばには、きれいに並べられた栗――。
その姿を見て、ようやく兵十はすべてを悟ります。
「ごん、おまえだったのか。いつも栗をくれていたのは…」
兵十の手から火縄銃が落ち、青い煙が静かに立ちのぼった。
※このあらすじは「ごんぎつね:Wikipedia↗」より引用・要約しています。
短いお話に込められた深いテーマ
『ごんぎつね』は、わずか数ページの短い物語。
けれども、その中には「すれ違い」「誤解」「思いやり」「伝わらなかった優しさ」など、たくさんの感情が丁寧に詰め込まれています。
とくに心に残るのは「思いは必ずしも相手に伝わるとは限らない」という切なさ。
いたずら好きだった子ぎつねの“ごん”が、ある出来事をきっかけに優しさを届けようとする。
だけどその思いは、肝心の相手である人間の“兵十(ひょうじゅう)”には伝わらず、すれ違いを重ねた末に、取り返しのつかない結末へと向かってしまう──。
読後に残るのは、単なる「かわいそう」ではない、胸の奥に広がる静かな問い。
誰かを思う気持ちは、どうすれば届くのか?
すれ違いを防ぐには、どうすればよかったのか?

読む人の年齢や経験によって、何度でも意味が変わってくる物語ですね。
「ごんぎつね」の読書感想文に使える場面とテーマ5選
『ごんぎつね』は短い物語ですが、読書感想文に使えるシーンがたくさんあります。
それは、それぞれの場面に考えたくなる“問い”や“感情の揺れ”があるから。
ここでは、特に感想文のテーマにしやすい5つの場面をピックアップし、それぞれのキーワードとともに紹介します。

「どこに注目して書けばいいかわからない…」というときは、まず自分が心を動かされた場面を選んでみてくださいね。
ウナギを逃がすシーン|テーマ「知らないうちに誰かを傷つけているかもしれない」
ごんが何気ない“いたずら”で、兵十のウナギを川に逃がしてしまうシーン。
そのときのごんには悪意はなく、「おもしろそうだから」という軽い気持ちでした。
でも数日後、ごんは村の葬列を目にしてしまう。
「もしかして、あのウナギが…?」と、初めて自分の行動の重さに気づく瞬間です。
この場面は、「自分では何とも思っていなかったことが、実は誰かを深く傷つけていたかもしれない」という、無自覚の怖さを伝えてくれます。
悪気がなかったとしても、相手にとっては取り返しのつかないことになるかもしれない。
そんな、日常の中でも起こりうる“すれ違い”の始まりの場面です。
読書感想文を書くためのヒント
- あなたは「そんなつもりじゃなかったのに…」と後悔したことがある?
- ごんのように、あとから相手の気持ちに気づいた経験は?
- “気づかないうちに人を傷つけてしまう”ことを防ぐには、どんなことができると思う?
鰯を届けて誤解されるシーン|テーマ「思いやりが裏目に出るとき」
ウナギの一件を悔いて、ごんは兵十のために鰯を届けます。
でもその行動は、かえって兵十に「誰かが盗んだ」と思わせ、周囲の人からも怪しまれてしまいます。
ごんは善意でやったつもりでも、相手にとっては迷惑になる。
思いやりがまったく別の形で受け取られてしまう。それがこの場面の切なさです。
「よかれと思ってしたのに…」という経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。
それでも、ごんは立ち止まらず、次にできることを探して行動を変えていきます。
その姿勢に、気持ちの伝え方や優しさのあり方を考えさせられます。
読書感想文を書くためのヒント
- 自分の優しさがうまく伝わらず、誤解されたことはある?
- ごんがその後、どう行動を変えたのかに注目してみよう
- 思いやりをちゃんと伝えるには、どんな工夫が必要だと思う?
毎日栗や松茸を届けるシーン|テーマ「見返りを求めない優しさ」
鰯の誤解を経て、ごんは自分で山に入り、毎日こっそり栗や松茸を届け続けます。
誰にも知られず、感謝もされず、それでもごんは変わらず優しさを続けます。
このシーンには、「見返りを求めない行動」の美しさが込められています。
誰かに「ありがとう」と言われたいからするのではなく、ただ「その人のために何かしたい」と思う気持ちからくる優しさ。
気づいてもらえなくても、伝わらなくても、それでも続ける。
そのごんの姿は、小さくてもとても大きな強さを感じさせてくれます。
読書感想文を書くためのヒント
- あなたには「見返りを求めず続けたこと」がある?
- ごんはなぜ、気づかれなくても届け続けたのだろう?
- 「優しさ」って、言葉よりも行動の中にあると思う?
撃たれるシーン|テーマ「伝わらないまま終わってしまうこと」
ごんがいつものように栗を届けに来たとき、兵十は「また悪さをしに来た」と勘違いして、火縄銃で撃ってしまいます。
この場面は、『ごんぎつね』のもっとも衝撃的で、心に残るシーンのひとつ。
善意が届かないどころか、誤解されたまま、ごんの命が奪われてしまう。
読者はここで、どうしようもない悔しさと悲しさに胸を締めつけられるはずです。
「伝えなければ、気持ちは伝わらない」
「黙っているだけでは、分かってもらえない」
そうしたコミュニケーションの難しさとタイミングの大切さが、この場面には静かに描かれています。
読書感想文を書くためのヒント
- あなたが「言いたかったのに言えなかった」ことは何?
- ごんが話せたとしたら、兵十にどんな言葉をかけたと思う?
- 伝えることをあきらめた結果、後悔したことはある?
「ごん、おまえだったのか」のセリフ|テーマ「気づくのが遅すぎたとき」
火縄銃を撃ったあと、倒れたごんのそばに並べられた栗を見て、兵十はようやく真実に気づきます。
「ごん、おまえだったのか」
このたった一言に、後悔と悔しさ、そして届かなかった思いへの悲しみが詰まっています。
もっと早く気づいていれば、ごんを撃つことはなかった。
もっと早く気づいていれば、感謝もできたし、すれ違わずにすんだかもしれない。
「気づいたときには、もう遅かった」
このセリフは、物語のラストを締めくくると同時に、読む人に深い問いを残していきます。
日常の中で、私たちは誰かの思いや優しさに気づけているだろうか――と。
読書感想文を書くためのヒント
- あなたが「もっと早く気づけばよかった」と思った出来事は?
- ごんの優しさに気づいた兵十の気持ちを、どう想像する?
- 今、自分の身の回りに“見えていない優しさ”はあると思う?
以上の5つのテーマを意識して読むと、『ごんぎつね』の読書感想文はぐっと書きやすくなります。
1つの場面を深く掘り下げてもいいし、いくつかのシーンをつなげて「すれ違い」や「後悔」といったテーマでまとめてもOKです。
大切なのは、「この場面で自分はどう感じたか?」「なぜ心に残ったのか?」を、自分の言葉で書いてみること。
あらすじを書くことが目的ではありません。
“読んでどう思ったか”“それが自分にどうつながったか”を素直に表現することこそ、読書感想文の本当の意味だと私は思います。
ぜひ、今回紹介したシーンやキーワードをヒントにして、あなたなりの『ごんぎつね』と向き合ってみてくださいね。
このあと、「ごんぎつね」が読書感想文におすすめな理由についても詳しく解説します。
「どう書けばいいか分からない…」という方は、ぜひそちらも参考にしてみてください。
『ごんぎつね』が読書感想文におすすめな理由
『ごんぎつね』は短くて読みやすい物語。
けれども、その中には“すれ違い”“誤解”“伝えられなかった思い”など、大人でもハッとさせられるようなテーマがたくさん詰まっています。
そのため、読む人の年齢や経験によって、見え方や受け取り方がまったく変わってくるのが特徴です。
ここでは、読書感想文との相性が良い理由を2つの観点から紹介しますね。
読者の年齢に応じた多様な読み取りができる
たとえば小学生が読むと、「ごんがかわいそう」「兵十はもっと早く気づいてあげればよかったのに」といった素直な感想が出てくるかもしれません。
中学生になると、「伝え方の難しさ」や「言葉にしない優しさ」のもどかしさに気づくようになります。
そして大人が読むと、「後悔は、気づいたときにはもう遅いのかもしれない」という人生の重みまで感じ取れることも。
このように、『ごんぎつね』は一度読んだだけでは終わらない物語です。
何歳で読んでも「今の自分に響くこと」があり、その年齢ごとの“答え”や“解釈”が生まれてくる。
だからこそ、読書感想文として「自分にしか書けない内容」が作りやすい作品だといえるのです。
感情と体験を重ねやすい
『ごんぎつね』に描かれているのは、とても身近な感情です。
- 「つい」やってしまったことで、誰かを困らせてしまったこと
- 優しさがうまく伝わらず、誤解された経験
- 感謝されなくても、続けた行動
- 伝えたかったのに、伝えられなかった思い
こうした感情は、日常の中でも誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
そのため、登場人物の気持ちに共感しやすく、「これは自分にも起きたことかもしれない」と自然に自分の体験とつなげて考えることができます。
感想文を書くときも、「あのときの自分」と重ねて書くことで、より深みのある内容に仕上がります。
「教訓を書く」のではなく、「自分の言葉で振り返る」ことがしやすい作品ですね。

『ごんぎつね』の読書感想文は別記事に書いているので、合わせてご覧ください。
まとめ|『ごんぎつね』が教えてくれる“すれ違い”と“優しさ”の形
『ごんぎつね』を読み終えたとき、心の中に残るのは「かわいそう」という一言では片づけられない深い余韻です。
ごんの優しさは、最後まで兵十に届くことはありませんでした。
けれど、だからこそ私たちは、「伝えること」「気づくこと」の大切さに改めて目を向けることができます。
思いを込めて行動しても、相手には伝わらないことがある。
優しさは、見返りを求めずに続けることで、ようやく“かたち”になることもある。
そして、気づくのが遅れてしまえば、どれだけ後悔しても取り返しがつかない──。
『ごんぎつね』が描いているのは、そんな“すれ違い”の連続と、それでもなお優しさを手放さなかった一匹の子ぎつねの物語です。
読書感想文を書くときは物語の中のひとつの場面に焦点をあてて、「なぜ心が動いたのか?」「どんな記憶や体験とつながったのか?」を自分の言葉で振り返ってみてください。
そうすることで、『ごんぎつね』という短いお話があなただけの人生に寄り添う物語へと変わっていくはずです。
ぜひ、あなただけの“気づき”をことばにしてみてくださいね。
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