「人間椅子」って、タイトルだけでちょっと怖そう…と感じたことはありませんか?
でも実は、登場人物は少なく、ページ数も短め。読書初心者の方でも最後までスラスラ読める、江戸川乱歩の代表的な短編小説です。
読み進めるほどに「怖いのに、続きが気になる」「最後はゾッとした…けど面白かった!」と感じる読者が多く、読後に誰かと感想を語り合いたくなるような一作でもあります。
この記事では、『人間椅子』のあらすじをやさしくネタバレつきで紹介しながら、作品の魅力やおすすめポイントもわかりやすく解説していきます。

まずは「そもそも『人間椅子』ってどんな話?」というところから見ていきましょう。
『人間椅子』ってどんな話?
「椅子の中に人がいる」という、ちょっと信じがたいけれど興味をそそられる設定で始まる『人間椅子』は、江戸川乱歩による短編の怪奇小説。
ある日、美しい女性作家・佳子(よしこ)のもとに、分厚い手紙が届きます。それは「椅子の中に隠れて女性のぬくもりを感じていた」という、見知らぬ男からの長い告白でした。
「本当にそんなことがあり得るの?」「これは現実?それとも作り話?」と、読み進めるうちに頭が混乱していくような、不気味だけどクセになる感覚がこの作品の魅力です。
怖いだけでなく、ちょっと笑ってしまうような奇妙さ、そして最後に「えっ、そうだったの!?」という驚きが待っています。

ここからは、この不思議な物語を書いた江戸川乱歩ってどんな人?というところから見ていきましょう。
作者・江戸川乱歩ってどんな人?
江戸川乱歩(えどがわ らんぽ)は、日本の推理小説・ミステリー界を代表する作家。
名前からして少し変わった印象を受けるかもしれませんが、実はこれはアメリカの有名な作家「エドガー・アラン・ポー」から取ったペンネームです。
乱歩は、1920年代から活躍しはじめ、推理・探偵ものだけでなく、ちょっと不気味でゾクッとするような“エログロ”や“怪奇”の世界も得意としていました。
まるで夢と現実のあいだをさまようような物語展開が特徴です。
彼の代表作には『D坂の殺人事件』『屋根裏の散歩者』『パノラマ島綺譚』などがありますが、中でもこの『人間椅子』は、“怪しくて面白い江戸川乱歩らしさ”がぎゅっと詰まった一編として人気です。
『人間椅子』の発表時期とジャンル
『人間椅子』が発表されたのは1925年(大正14年)。100年近く前の作品ですが、いま読んでもまったく古びた感じがしません。
この作品は、当時の雑誌『苦楽』に掲載された短編で、ジャンルとしてはスリラー・怪奇小説・エログロナンセンスに分類されます。
「エログロナンセンス」という言葉を聞くと難しく感じるかもしれませんが、ざっくり言えば「ちょっとエロくて、ちょっとグロくて、だけどどこかユーモラスで不思議な感じ」というジャンルです。

日常に潜む「もしも」がどんどん膨らんでいって、最後には思いがけない方向に転がっていく…そんな物語が好きな人にぴったりの一作です。
初心者でも読みやすい理由とは?
「江戸川乱歩って難しそう…」というイメージがあるかもしれませんが、『人間椅子』は読書初心者にこそおすすめできる作品です。理由は大きく3つあります。
・短くてサクッと読める
全体で20〜30分ほどで読めるボリューム感。長編ではないので、読書に慣れていなくても最後までたどり着きやすいです。
・登場人物が少なくて混乱しにくい
メインの登場人物は「佳子(女性作家)」と「私(椅子職人)」の2人だけ。関係もシンプルで、物語を追いやすい構成になっています。
・最初から最後まで、好奇心が止まらない
「椅子の中に人がいた…?」という謎の手紙から始まり、「どうなるの?」「本当なの?」
と、読み進めるうちにどんどん惹き込まれます。読書慣れしていなくても、物語の勢いで読めてしまう構成です。

ちょっとだけ怖いけど、先が気になってページをめくってしまう。そんな読書体験をしてみたい方には、まさにぴったりの作品です。
登場人物はたったの3人だけ
『人間椅子』には、物語の中心となる登場人物がたった3人しか出てきません。
そのぶん、内容がとても整理されていて、読書に不慣れな方でも混乱しにくい構成になっています。
それぞれのキャラクターは少ない言葉の中にも個性が光っていて、読むうちに印象がどんどん強くなっていくはず。
ここではその3人について紹介していきます。
佳子(よしこ):人気の女性作家
佳子(よしこ)は、本作の語り手であり、読者と同じように物語の謎に巻き込まれていく人物です。
彼女は美しい女性で、外交官の夫を持ち、洋館に住む人気の女性作家。毎朝夫を見送ったあと、自宅の書斎にこもって創作に集中するのが日課。
この物語は、そんな佳子のもとに届いた奇妙な手紙を読むところから始まります。
最初は「ただの創作原稿かも?」と思いながら読み始めた手紙でしたが、次第に内容が不気味なものへと変わっていき、彼女の心を揺さぶります。
読者は、佳子と一緒に「これって本当に起きたこと?」「この男は誰なの?」と考えながら、物語の真相に迫っていくことになります。
「私」:ちょっと怖い椅子職人
物語のもう一人の主役が、「私」と名乗る椅子職人の男。
彼は、自分のことを「世にも醜い顔の持ち主」と語っており、見た目のコンプレックスと孤独を抱えながら生きてきた人物です。
腕のいい職人だった彼は、ある日、自分が作った大きな椅子の中に人間が入れる空間をこっそり作り、そこに自分自身を潜ませるという奇妙な行動に出ます。
最初はホテルで盗みを働くためだったものの、次第に椅子に座る女性たちの体温や感触に快楽を覚え、椅子の中で暮らすこと自体に喜びを感じるようになっていきます。
この男がなぜ佳子に手紙を送ったのか? 彼が言うことは本当なのか? 読者の不安と好奇心を一気にかき立てる、物語最大の謎を抱える人物です。
女中:物語のカギを握る手紙の配達人
最後の登場人物は、佳子の家に勤めている女中(じょちゅう)。
登場する場面は少ないですが、彼女が手紙を運んでくることで、物語が大きく動き出します。
特にラストシーン、「もう一通の手紙」を届ける場面は、読者の背筋をゾクッとさせる重要な場面です。
目立つ役ではありませんが、「ちょっとした脇役が作品の雰囲気をぐっと深める」好例ともいえるキャラクターです。
次は、この3人が織りなす物語の全体像を、「起承転結」でわかりやすく紹介していきます。

佳子が読んだ“あの手紙”の内容とは一体・・・?
『人間椅子』のあらすじをやさしく紹介(ネタバレあり)
ここでは、物語の流れを「起承転結」に分けて、やさしく・わかりやすく紹介。
すでに作品を読んだ人には復習に、まだ読んでいない人には全体像の把握に役立つはずです。
最後には驚きの展開が待っているので、ネタバレOKな方だけ読み進めてくださいね。
起:佳子に届いた謎の長い手紙
物語は、美しい女性作家・佳子(よしこ)のもとに、分厚い原稿用紙の束が届くところから始まります。
送り主は不明。表題も署名もなく、いきなり「奥様」という呼びかけから始まる手紙――。
なんとなく不気味な空気を感じつつも、佳子はページをめくり始めます。
そこには、「私」と名乗る男が、世にも奇妙な体験を懺悔(ざんげ)する文章が綴られていました。
承:醜い椅子職人の夢と妄想
手紙の書き手は、醜い顔立ちにコンプレックスを抱えた椅子職人の男。「私」はその生まれや境遇を呪いながらも、腕のいい職人として仕事に励んでいました。
彼の楽しみは、自分が作った豪華な椅子に座って、「この椅子に座るのはどんな素敵な人だろう?」と妄想すること。
でも、現実に戻れば孤独な日常。やがて、「このつらい人生を終わらせたい」とまで考えるようになります。
そんなとき、「私」はある椅子の製作をきっかけに、人生を大きく変える“とんでもないアイデア”を思いついてしまいます。
転:椅子の中で恋に落ちた男
「私」が作ったのは、大きな肘掛け椅子。なんとその中に、人がすっぽり入れる空間をこっそり作り、自ら潜り込んでしまったのです。
目的は、夜な夜なホテル内を這い出して盗みを働くこと。しかし、彼が思いがけず夢中になったのは――椅子に座る女性のぬくもりでした。
革越しに伝わる体温、香り、声…それらに触れているうちに、彼は次第に「椅子の中にいること」そのものに喜びを見出していきます。
そして月日が経つうちに、彼はついに椅子の中で「恋」に落ちてしまうのです。
結:ラストのどんでん返しにゾッとする
やがてその椅子は、日本人の官吏の家に売られ、ある女性の書斎に置かれることに。そう、それが佳子の家の椅子でした。
「私」は椅子の中で、佳子のぬくもりに酔いしれ、次第に「自分の存在を知ってほしい」と願うようになります。そして、ついに佳子に向けた手紙を書く決意をします。
佳子は恐怖におののき、書斎から逃げ出します。そんな彼女のもとに、さらにもう一通の手紙が届きます。
そこには――
「これは私の創作です。感想を聞かせてください。表題は“人間椅子”と名づけたいと思います」と書かれていたのです。
あれは実話だったのか、それとも創作だったのか?
読者にも答えは明かされないまま、物語は幕を閉じます。
次のセクションでは、この物語の「面白さ」や「気味の悪さ」がどう作られているのか?について、わかりやすく解説していきます。

怖いだけじゃない、『人間椅子』の不思議な魅力に迫っていきましょう。
『人間椅子』のどこが面白いの?
「怖い」「気味が悪い」と言われる『人間椅子』ですが、読み終えた多くの人が口をそろえて言うのは――
「怖いのに、なぜか最後まで読んでしまった」
「これって本当に作り話?と混乱するくらいリアルだった」
という感想です。
ここでは、そんな『人間椅子』ならではの魅力を、3つのポイントから紹介します。
「怖いのになぜか読めてしまう」理由
『人間椅子』には、たしかに「ちょっと怖い」描写が出てきます。椅子の中に人が潜んでいたとか、女性の体の感触をじっと味わっていたとか…。
でも、この作品のすごいところは、その「怖さ」がジワジワと心に忍び込んでくるようなものだという点です。
いきなり血が出たり誰かが殺されたりするようなホラーではありません。むしろ、「そんなこと、あり得るの…?」と疑いたくなるような異常さが、日常の静けさの中にポツンと現れるからこそ怖さが倍増するんです。
そして何より、手紙という形で物語が進むことで、読者は佳子と同じ気持ちで内容を読み進めることになります。

怖がりな人ほど「先が気になる」──そんな仕掛けがしっかり効いている作品です。
妄想と現実の境目がわからなくなる構成
『人間椅子』の最大の特徴は、ラストに待ち受ける“どんでん返し”です。
読者はずっと「これは実際にあったことなのかも…」と思いながら手紙の内容を追いかけていきますが、最後の最後に「これは創作でした」と告げられることで、現実と虚構の境界が一気に揺らぎます。
けれど、それでホッとできるかというと…そうでもありません。
「いや、ほんとは本当にあったことなんじゃないか?」という疑念が、ふっと頭に浮かび、妙な余韻を残して物語は終わります。

まるで自分自身も物語の中に引き込まれたような、読後の不思議な感覚。それこそがこの作品の大きな魅力です。
江戸川乱歩らしさがぎゅっと詰まった一作
江戸川乱歩といえば、“推理小説の人”というイメージを持つ方も多いかもしれません。
たしかに探偵・明智小五郎シリーズなども有名ですが、乱歩のもうひとつの顔が「エログロナンセンス(=少しエロくて、ちょっとグロくて、妙に可笑しい)」な世界を描く作家だということ。
『人間椅子』は、まさにそのエッセンスがぎゅっと凝縮された作品です。
✔ 普通じゃない人の、普通じゃない欲望
✔ 日常に見え隠れする狂気
✔ 「怖い」と「滑稽(こっけい)」が紙一重な世界観
これらが、短い物語の中に見事に詰め込まれていて、まさに“江戸川乱歩の真骨頂”とも言える一作になっています。
乱歩ワールドの入り口としてもぴったり。読書初心者の方にこそ、この独特な世界観に一度触れてみてほしい作品です。
次は、そんな『人間椅子』がどんな人におすすめなのかをご紹介します。

「読んでみたいけど怖すぎたらイヤだな…」という方も、ぜひチェックしてみてください。
『人間椅子』はこんな人におすすめ
「読んでみたい気持ちはあるけど、自分に合うかどうか不安…」という方のために、ここでは『人間椅子』をおすすめできる読者タイプを3つご紹介します。
当てはまるところがあれば、ぜひ気軽にページをめくってみてください。
怖い話がちょっと気になる人
「ホラーは苦手だけど、ちょっとゾクッとする話には惹かれる」
そんな方には、『人間椅子』がぴったりです。
この作品は、いわゆる心霊系の怖さではなく、“日常の中にまぎれた異常さ”がじわじわと効いてくるタイプの怖さです。
登場人物の誰も叫ばないし、血も出ません。それなのに、「うわ…なんだこれ」とゾッとするような不気味さが、静かに染みてきます。
「ほんの少し背筋が寒くなるような物語を味わってみたい」という方にとって、ちょうどいい刺激になるはずです。
短編から読書にチャレンジしてみたい人
「本を読みたいけど、長編はハードルが高い…」
そんな人にこそおすすめなのが、この『人間椅子』。

大正時代の作品なので、やや句読点が多さや言い回しにクセがあるけれど、私は20〜30分で読み終わりましたよ。
物語の展開が早く、登場人物も少ないので、読みながら混乱しにくく、最後までスムーズに進めます。
しかも、最後に驚きの展開が待っているので、「読んでよかった!」という満足感がしっかり得られるのもポイント。
読書が苦手だった人の「はじめの一歩」として選ばれることも多い作品です。
江戸川乱歩を初めて読む人
江戸川乱歩の作品に興味があっても、「どれから読めばいいの?」と迷ってしまう方も多いはず。
そんなときは、『人間椅子』がまさにベストな入り口です。
・短くて読みやすい
・江戸川乱歩の特徴(ちょっと不気味で、ちょっとユーモラス)が詰まっている
・読後に「もっと読んでみたい」と思わせてくれる
この3拍子がそろっているからこそ、初乱歩作品として非常に人気があります。

乱歩ワールドの“扉を開ける一冊”として、ぜひ手に取ってみてください。

私とジューイが書いた読書感想文もあるので、合わせてご覧ください。
まとめ
江戸川乱歩の短編小説『人間椅子』は、たった3人の登場人物と、手紙1通を軸にしたシンプルな構成で進む物語です。
それなのに、読み終えたあとには「えっ、これ本当に創作だったの?」「でも、あの描写はリアルすぎる…」と、現実とフィクションの境界があいまいになるような余韻が残ります。
怖いけれど面白い。気味が悪いけれど、なぜか読めてしまう。
そんな“怖いのにクセになる読書体験”を味わってみたい方には、まさにぴったりの一冊です。
読書が苦手でも大丈夫。ページ数も少なく、言葉も比較的やさしいので、「最初の一冊」にも最適です。
もしもあなたが今、読書の扉をノックしかけているなら――
その扉の向こうで待っているのが、この不思議な「椅子」かもしれませんよ。
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