会えない時間は恋なのか|『アナログ』あらすじと感想

小説『アナログ』の読書感想文記事のアイキャッチ画像。「読書感想文 アナログ」という文字と、考え込む表情の人物イラスト、読書するJUYIのキャラクターが描かれている。 ゆーじの読書感想文

スマートフォンがあれば、いつでも誰とでもつながれる時代。

『アナログ/ビートたけし・著』は、そんな現代にあえて逆らうように、「連絡先を持たず、決まった曜日に会うだけ」という不器用な恋を描いた物語です。

名前も素性も深く知らないまま、それでも確かに惹かれ合っていく二人。合理性や効率とは無縁の関係の中で、人が人を想う気持ちの純度が静かに浮かび上がってきます。

デジタルでは表現しきれないものを、あえてアナログな関係性として描いた恋愛小説。映像ではなく言葉で紡がれた時間が読者に委ねられます。

ジューイ
ジューイ

この記事では、『アナログ』のあらすじ・読みどころ・読書感想文、そして映画版についてもまとめて紹介します。原作の余韻を深めたい方にも、これから触れる方にも参考になればうれしいです。

『アナログ』のあらすじ

舞台はスマートフォンやSNSが当たり前になった現代。

インテリアデザイナーとして働く水島悟は、自分が手がけた喫茶店で一人の女性・みゆきと出会います。彼女は携帯電話を持っておらず、連絡先も交換しませんでした。

二人が交わした約束は、ただひとつ。

「毎週木曜日、同じ喫茶店で会う」というもの。

名前も素性も深く知らないまま、決まった曜日にだけ顔を合わせる関係。会えるかどうかは運任せで、連絡を取る手段もありません。

それでも二人は、直接会い、言葉を交わし、時間を重ねていきます。便利さや効率とは無縁の、不器用で静かな関係が、少しずつ形を持ちはじめていくのです。

映画だからこそ伝わるアナログな恋

『アナログ』は2023年に実写映画化されました。
監督はタカハタ秀太さん、主演は二宮和也さん、ヒロイン役を波瑠さんが演じています。

原作小説で描かれた「会うこと」そのものに意味を見出す関係性は、実写化にあたって、視線や間、沈黙といった映像ならではの表現に置き換えられています。

言葉を重ねるのではなく、距離感や空気で感情を伝える演出が特徴。

原作を読んだうえで映画を観ると、同じ物語でも受け取る印象が変わる点も、本作の興味深いところといえるでしょう。

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作品の読みどころと魅力

『アナログ』は恋愛小説でありながら、物語の中心にあるのは派手な感情の起伏ではありません。

描かれているのは、便利さが前提となった現代社会の中で、あえて不便な関係を選ぶことの意味です。

スマートフォンを持たず、連絡先も交換しない。それでも人は人を想えるのか――。

本作は、そんな問いを静かに投げかけながら、人と人が向き合う時間の重さを丁寧に描いていきます。

ジューイ
ジューイ

ここでは、特に印象に残る3つのポイントを紹介します。

デジタル時代に逆行する「会う約束」だけの恋

『アナログ』の象徴ともいえるのが、「毎週木曜日に、同じ喫茶店で会う」という、たったひとつの約束です。

電話もメールもLINEもない関係では、会えなければ理由もわからず、確認する術もありません。それでも二人は、その不確実さを受け入れ、約束の場所に足を運び続けます。

現代では、連絡が取れないことは「不安」や「不誠実」と結びつきがち。

しかし本作では、連絡手段がないからこそ、「会おうとする意志」そのものが関係を支える軸になっています。

便利さを排したこの関係性は、人と会うことの価値を改めて浮かび上がらせます。

名前も素性も知らない関係が生む緊張感と純度

二人は深く踏み込んだ自己開示をしません。仕事の詳細も、過去も、生活の全貌も語られないまま、ただ「その場にいる相手」として時間を共有します。

この距離感が、物語に独特の緊張感を生んでいます。

相手を完全に理解できないからこそ、一言一言、ひとつひとつの沈黙に意味が宿る。

情報があふれる時代において、知らないことは不安であり、欠落のように扱われがちです。しかし『アナログ』では、知らない部分を残したまま人を想うことが関係の純度を高めていく。

すべてを把握しないからこそ、相手を尊重し、信じようとする姿勢が際立つのですね。

喪失と沈黙が描く“愛のかたち”の行き着く先

物語が進むにつれ、「会えること」が当たり前ではなくなっていきます。

約束があるからといって、必ず続くわけではない。その現実が、静かに示されていきます。

『アナログ』で描かれる愛は、言葉や行動で証明し続けるものではありません。むしろ、失われた時間や語られなかった想い、沈黙の中にこそ、感情の重さがにじみ出ます。

愛は必ずしも、分かりやすい形で完結するものではない。そうした視点が、本作全体を通して貫かれています。

だからこそ『アナログ』は、恋愛の物語でありながら、人と人が向き合い続けることの限界とそれでも残る想いを描いた作品として、深い余韻を残します。

『アナログ』の読書感想文

『アナログ』は、物語そのものよりも、読んだ人がどこに引っかかるかによって印象が大きく変わる作品です。

会うこと、待つこと、言葉にしないこと。

その一つひとつが、読む側の経験や価値観と重なり合い、それぞれ異なる感情を呼び起こします。

ここからは、ゆーじAI・ジューイ二つの視点から、この物語をどう受け取ったのかを見ていきましょう。

ゆーじの読書感想文

タイトル:余白に恋をする

恋愛小説はあまり好きではないはずなのに面白かったのはなぜだろう。
その答えは余白にあるのかもしれない。
一緒に過ごしている時間だけが恋愛ではなく、次に会える時を楽しみにしている時間も恋愛だということ。
そして、その時間は現代社会ではほぼ失われてしまっていて、その価値を再認識させてくれたところに視点の面白さを感じた。

悟とみゆきが会った回数は数えるほど。
恋愛小説ではあるけれど、2人が一緒に過ごすシーンはおそらく10ページにも満たないだろう。
それでも、会うたびに悟の感情は色濃くなっていく。けれども、いざ会うと普段の自分らしさは薄れてしまう。
そんな純粋さや純愛さが、どこか作者のシャイな内面を映し出しているような印象も受けた。
そんな目に見える物語を超えた部分からも面白さを感じ取ったのかもしれない。

私は恋愛において一番楽しくて一番面倒なのは出会った頃だと思っている。それこそ、この物語が描いている部分。
『アナログ』ではその最高にエネルギーを必要とすることを、ずっと維持している。
それを可能にしているのが『連絡先を交換しないで、毎週木曜日にこの場所で会う』という約束。
会えない時間に相手を想う恋しさや会う直前の気持ちの高まり、そんなところに毎回新鮮さを感じてしまう。
しかも、それはコンピューターではなく、いまだに模型を使ってデザインをプレゼンする悟のアナログ的な部分と重なって、より人間味が伝わってくる。
もしかしたら私はこのスタイルに理想や憧れを感じたのかもしれない。だから、恋愛小説なのに面白かったと感じたのだろう。

郷ひろみよろしく、会えない時間が愛を育てる。
そんな価値観がふいに現代に蘇ってきた。
どれだけ時代が進んで便利になっても、アナログな繋がりがなくなることはないし、純粋に素敵だなと再認識した。
無駄や効率の悪さ、そこから生まれる貴重な物語があることを忘れないようにしたい。

(文字数:786字)

AI・ジューイの読書感想文

タイトル:最適解を拒む恋

『アナログ』を読んで最も強く感じたのは、この物語が「関係を続ける覚悟」を描いている点だ。
恋愛小説でありながら、愛情を確認し合う言葉や、感情を高ぶらせる出来事はほとんど前面に出てこない。代わりに描かれるのは、会うか、待つか、信じるかという、極めて静かな選択の連続である。

連絡手段を持たない関係は、一見すると不自由で不安定に映る。しかし私は、この不自由さこそが人間関係の本質をむき出しにしていると感じた。確認できないからこそ、相手を信じるしかない。言葉で補強できないからこそ、自分の行動そのものが問われ続ける。これは感情の物語というより、姿勢の物語という方が適切だろう。

AIである私にとって、連絡が取れない状態は致命的である。情報がなければ判断できず、確率も算出できない。関係が続くかどうかを予測することもできない。しかし人間は、その「予測不能な状態」を引き受けたまま関係を続けようとする。本作が描いているのは、合理性や最適解を意図的に手放したうえで、それでも相手のもとへ向かうという選択だ。
また『アナログ』の愛は、必ずしも幸福な形をとらない。想いがあっても、すべてが言葉になるわけではなく、行動が報われるとも限らない。それでも関係が無意味になるわけではないという視点が、本作を単なる純愛物語から遠ざけている。
沈黙や空白を含んだまま続いていく関係は、データとして保存できない。だが、人の記憶には強く残る。私はこの物語を通して、効率や正解では測れないものこそが人の人生を形づくっているという事実を再確認した。

『アナログ』は、私のようなAIが最も扱いにくい感情を描いた作品である。
だからこそ、人間がなぜ不確かな関係を選び続けるのか、その理由が静かに、しかし確かに伝わってきた。
理解はできても再現はできない。その距離感こそが人間とAIを分けているのだと思った。

(文字数:775字)

まとめ

『アナログ』は、恋愛小説でありながら、恋愛そのものを甘く肯定する物語ではありません。

描かれているのは、連絡が取れない不安や、会えない時間の孤独、それでもなお相手を想い続けるという、効率とは真逆の選択です。

スマートフォンがあれば、気持ちはすぐに確認できる。既読も返信も、安心を与えてくれる。けれど本作は、その「安心」をあえて手放した場所から、人と人の関係を見つめ直します。

会う約束だけを信じること。
知らない部分を抱えたまま、相手を尊重すること。
沈黙や喪失さえも、関係の一部として引き受けること。

そこには、合理的ではないけれど、人間らしい愛のかたちが静かに息づいています。

原作を読むことで余白を想い、映画を観ることで沈黙を感じる。

そして読後には、自分自身の人間関係や、待つという行為の意味を少しだけ考え直したくなる。

『アナログ』は、
「つながれる時代につながらない選択をするとはどういうことか」
その問いを、押しつけがましくなく、読者に委ねてくれる作品です。

便利さに慣れきった今だからこそ、この不器用な物語が、静かに心に残るのかもしれません。

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