瀬戸内の海を望むホスピス「ライオンの家」を舞台に、余命を宣告された女性と、そこで出会う人々の心温まる交流を描いた小川糸さんの小説『ライオンのおやつ』。
物語の鍵となるのは、毎週日曜日に行われる「おやつの時間」です。
入居者が“人生最後にもう一度食べたいおやつ”をリクエストし、その思い出とともに味わうひととき。
この作品は、死と向き合いながらも生きる喜びを見つめ直す、やさしくも力強い物語として多くの読者の心をつかみました。
『ライオンのおやつ』の基本情報
『ライオンのおやつ』は、作家・小川糸さんによって2019年10月10日にポプラ社から刊行された中編小説です。
物語の舞台は、瀬戸内の海を望むホスピス「ライオンの家」。
余命を宣告された主人公・雫が、限られた日々をどう生きるか、そして人生最後に食べたい“おやつ”をめぐる思い出と人とのつながりが描かれています。
2020年度の本屋大賞では第2位を受賞し、読者からの高い支持を獲得。翌年にはNHK BSプレミアムでテレビドラマ化され、物語の温かな世界観と美しい情景が映像でも再現されました。
ジャンルとしてはヒューマンドラマ小説に分類されますが、食や日常描写の魅力も詰まっており、“食堂かたつむり”以来のファンからも支持を集めています。
続く項目では、著者・小川糸さんの経歴や、出版背景、受賞歴、そしてドラマ化などの映像展開について詳しくご紹介します。
著者・小川糸について
小川糸(おがわ・いと)さんは、2008年に刊行したデビュー作『食堂かたつむり』で注目を集めた小説家です。同作は国内外で翻訳出版され、映画化もされるなど大きな話題となりました。
その後も『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』など、温かみのある人間ドラマと、美味しそうな食の描写を織り交ぜた作品を数多く発表。
著書は英語・韓国語・中国語・ベトナム語・フランス語・スペイン語・イタリア語など多言語に翻訳され、海外でも広く読まれています。
『ライオンのおやつ』もまた、小川作品らしい“日常と命の物語”が読者の心を捉え、国内外で高く評価されました。
『ライオンのおやつ』のあらすじ【ネタバレなし】
物語の主人公は、30代で余命を宣告された女性・海野雫(うみの・しずく)。
一人暮らしをしていた彼女は、残された時間を静かに、そしてできる限り穏やかに過ごすため、瀬戸内の島にあるホスピス「ライオンの家」を訪れます。
そこでは、美しい海と島の空気に包まれながら、同じように人生の最終章を迎える仲間たちとの新しい日々が始まります。
「ライオンの家」での生活は決して悲しみ一色ではなく、笑いや会話、美味しい食事やおやつの時間があり、それぞれが大切な時間を心ゆくまで味わっていました。
雫もまた、そこでの出会いを通じて、これまでの人生や本当にやりたかったことと向き合うようになっていきます。
物語の舞台は瀬戸内の島のホスピス「ライオンの家」
「ライオンの家」は、看護師でありカウンセラーでもある女性・マドンナが運営するホスピス。
窓からは瀬戸内の穏やかな海が見え、島の時間はゆっくりと流れています。
入居者は年齢も背景もさまざまですが、共通しているのは“命に限りがある”という事実。
だからこそ、日々を大切に過ごし、互いを尊重しながら暮らしています。
雫はそこで、心優しいスタッフや入居者、島の人々と出会い、少しずつ自分の心を解きほぐしていきます。
毎週日曜に開かれる「おやつの時間」
「ライオンの家」には特別な習慣があります。それが、毎週日曜日の午後3時に行われる「おやつの時間」です。
入居者は、生きているうちにもう一度食べたい“思い出のおやつ”を紙に書き、そのエピソードとともに専用の箱へ投函。
当選者はくじ引きで決まり、当日まで誰のリクエストかは秘密。おやつが運ばれる瞬間は、入居者やスタッフにとって小さなサプライズであり、思い出を語り合う温かな時間でもあります。
雫もまた、この「おやつの時間」に特別な想いを寄せるようになっていきます。
『ライオンのおやつ』のあらすじ【ネタバレあり】
ここからは物語の結末に触れる内容を含みます。
瀬戸内の穏やかな海と人々の温もりに包まれながら、主人公・雫が人生の最終章をどう生き抜いたのか。
その過程とラストシーンまでを追いながら、『ライオンのおやつ』が伝える深いメッセージを振り返ります。
余命宣告を受けた雫の選択
30代という若さで医師から余命を告げられた雫は、都会の喧騒から離れ、瀬戸内の小さな島にあるホスピス「ライオンの家」で残された日々を過ごすことを決意します。
そこは、死を待つだけの場所ではなく、残された時間を精一杯生きるための“家”。
雫は新しい環境に少し戸惑いながらも、穏やかな日常と美しい景色に迎えられ、少しずつ心を開いていきます。
仲間たちとの出会いと心の変化
「ライオンの家」には、個性豊かな入居者やスタッフが暮らしています。
食事を担当する姉妹のシマと舞、陽気な農作業青年タヒチ、音楽セラピーを届けるカモメちゃん、そして同じ入居者であるマスターや先生たち。
雫は彼らとの交流を通じ、死を恐れるばかりだった自分の心が、少しずつ“今を味わう”方向へ変わっていくのを感じます。
特に、幼くして命を終えた百ちゃんとの出会いは大きな転機となり、「死を受け入れることは、生きたい気持ちを認めることでもある」と気づく瞬間が訪れます。
雫が最後に選んだおやつとその意味
毎週日曜の「おやつの時間」に、雫はなかなかリクエストを書けずにいました。
しかし終盤、彼女はついに一枚の紙にペンを走らせます。そこに書かれていたのは、父との思い出が詰まったおやつ。
幼い頃に味わったその味は、彼女の人生を象徴するような存在でした。
おやつを通して、雫は家族との記憶や過去の自分を受け入れ、感謝とともに最後の時間を迎える準備を整えていきます。
物語のクライマックスと別れのシーン
やがて雫は静かに息を引き取ります。
三日後、タヒチと犬の六花が、雫の願い通り空に向かって手を振る。それはまるで、彼女が遠くから笑顔で応えているような瞬間でした。
マドンナは雫の死を「ろうそくが自然に燃え尽きるようなもの」と語り、残された者たちは彼女の生き方と笑顔を胸に、再び日常へと歩み出します。
別れは悲しみだけではなく、命の尊さと今を生きる力強さを教えてくれるものでした。
作品が伝えるテーマとメッセージ
『ライオンのおやつ』は、死をテーマにしながらも決して暗さだけにとらわれない物語。
瀬戸内の美しい景色や人々の交流、おやつを囲む時間を通して、命の有限性と今を生きる尊さが描かれています。
読者は雫の心の変化を追いながら、「もし自分ならどう生きたいか」「最後に何を味わいたいか」という問いを自然と考えることになるでしょう。
ここでは、この作品が伝える3つの大きなメッセージを整理します。
死と向き合いながら生きること
物語の核心は、“死を意識することで、むしろ生が際立つ”ということ。
雫は余命宣告を受け、恐怖や悲しみを抱えながらも、「ライオンの家」での出会いや日々を通じて、限られた時間を大切に味わうようになります。
死は避けられない終着点ですが、その事実を受け入れることで、毎日の小さな喜びや人とのつながりがより鮮明になります。
この姿は、読者に「今、自分は何を大切にしたいのか」という気づきを与えるでしょう。
「おやつ」が象徴する人生の思い出
毎週日曜に開かれる「おやつの時間」は、単なる食事イベントではありません。
そこに登場するおやつは、それぞれの入居者の人生を物語る“記憶の象徴”。
雫が最後に選んだおやつは、父との大切な思い出を呼び起こし、自分の人生を肯定するきっかけとなります。
甘い香りや懐かしい味は、読者にも自身の記憶や家族との時間を思い起こさせ、物語と自分の人生が重なり合う瞬間を生み出します。
読後に残る温かさと生きる力
本作の読後感は、涙だけではなく温かさと静かな力強さ。
死をテーマにしているにもかかわらず、ラストには「生きている今をもっと大切にしよう」と思える余韻が残ります。
それは、雫や仲間たちが笑いや優しさに包まれながら人生を全うした姿が、読む人の心に希望を灯すからです。
作品を閉じた後、日常の景色や食べ物、人との会話が、これまで以上に愛おしく感じられるでしょう。『ライオンのおやつ』をもっと楽しむために
『ライオンのおやつ』は小説単体でも十分に心を揺さぶられる作品ですが、映像化作品や関連テーマの本とあわせて触れることで、より深く味わうことができます。
また、作品をきっかけに自分の感じたことを言葉にして残すと、読後の気持ちがさらに鮮明になります。
ここでは、原作とドラマ版の違い、同じテーマでおすすめの小説、そして読書感想文を書く際に役立つ参考記事をご紹介します。
ドラマ版との違い
NHK BSプレミアムで放送されたドラマ版『ライオンのおやつ』は、原作の温かな雰囲気を大切にしながらも、一部設定や人物像にアレンジが加えられています。
特に、登場人物の背景説明や関係性が映像的に分かりやすく補強されており、原作では語られない細やかな心情描写やエピソードが追加されています。
また、瀬戸内の海や島の景色が映像として表現されることで、原作で想像していた情景がより鮮明に立ち上がります。
小説を読んだあとにドラマを見ると、登場人物への理解が深まり、感動が二重に味わえるでしょう。
同じテーマで読みたいおすすめ作品
『ライオンのおやつ』と同じく、死と向き合いながら生きることを描いた作品としては、瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』や原田マハ『永遠をさがしに』などがあります。
また、ホスピスや終末期をテーマにしながらも、温かさとユーモアを忘れない物語としては、森絵都『風に舞いあがるビニールシート』の中の短編や、川上弘美『センセイの鞄』もおすすめ。
いずれも「限られた時間をどう生きるか」というテーマを持ち、読後に深い余韻を残してくれるでしょう。
読書感想文の参考記事へ
『ライオンのおやつ』は、読書感想文の題材としても非常に書きやすい作品。
物語を通して感じたことや、自分だったら何を最後のおやつに選ぶかを考えるだけで、自然と感想の核が生まれます。
別記事では、実際にこの本を読んで書いた感想文を全文掲載し、構成のコツや書き出し例も解説しています。
感想文を仕上げたい方は、ぜひ以下の記事もあわせてご覧ください。
👉 『ライオンのおやつ』読書感想文|全文例と書き方のヒント(準備中)
まとめ
『ライオンのおやつ』は、死をテーマにしながらも、読後には温かさと希望が残る稀有な小説です。
瀬戸内の穏やかな海を背景に、主人公・雫が仲間たちと過ごす日々は、決して特別な出来事ばかりではありません。
それでも、会話や笑顔、そして毎週の日曜に訪れる「おやつの時間」が、人生のかけがえのない瞬間であることを教えてくれます。
物語を読み進めるうちに、読者自身も「もし自分だったら、最後に何を味わいたいか」を自然と考えるでしょう。
その問いは、今この瞬間をどう生きるかという問いに直結します。
涙を誘う切なさと同時に、日常を愛おしく思わせる力を持つ本作は、静かな時間にじっくりと味わいたい一冊です。
まだ読んだことのない方は、ぜひ手に取り、雫とともに“今を生きる”意味を見つめ直してみてください。
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